広島が生んだデザイン界の巨匠 榮久庵憲司の世界展 広島県立美術館 #広島県美





元々デザインにはあまり興味がなかった。

しかし、大人になって知り合いが
「この曲線がいいんだよね」
「このデザインのここが」
と言うのを頻繁に聞くようになり、
それが私の中に残されて今に至る。

そして、両親やパトリス・ジュリアンの影響で、
「生活のアート」に関心を持ち、
日常使うものにも、そっと意識するようにしている。










榮久庵さんの展覧会に行こうと思ったのは、
キッコーマンのしょう油びんのデザイナーだと知ったからだ。

50日余りのスペイン巡礼を終え、
心身ともにへとへとになった私を迎えてくれたスイスの友達の冷蔵庫にもこのびんがあった。

2カ月弱ぶりのしょう油の味に、私はくらくらした。
すごくほっとした。

まさかスイスでおしょう油なんて!

キッコーマンがすごいのかもしれないが、
あの見慣れたしょう油びんを見て、私は泣きそうになったのだ。












私は知らなかったのだが、榮久庵さんのデザインは思った以上に身近にあった。

JRAのロゴ

広島の路面電車のGREEN MOVER

広島の新交通システムのアストラムライン


バイクやスピーカーが好きな人にはたまらないものがあるかもしれない。

あとは、手軽に本格コーヒーが楽しめるモンカフェのパッケージも!




展覧会に行く前に
「インダストリアル・デザイン」ということばの意味がわからなくて、調べたら、
「工業(製品)デザイン」という意味だった。

そのときはなんとなく、
「ふーん」で思ったけど、
榮久庵さんのデザインがコンパクトにまとめられている展示室で改めて思った。

すべてにデザインがあるんだ!


今、背負っているリュックも、
感じたことを書き留めるために持ち歩いたノートブックも、
歯ブラシだってパソコンだって、
すべてにデザインがあって、
それをデザインしている人がいるんだ!

当然のことなんだろうけど、すごくびっくりした気づきだった。










模型も面白かった。

これは2015年からJRで走る車両のデザイン。
真ん中で違う車両となっている。













薄い仕切りは鏡になっていて、
赤い車両とオレンジの車両が1台で見る向きによって2台分見ることができる。

実際に採用になったのは赤い車両。












依頼されたデザインだけではなく、
「こんなものがあったらどうだろうか」
というところからデザインされたものがまとめられた展示室もあった。

榮久庵さんの柔軟な発想や遊び心、優しい気持ちが一番現れている部屋のような気もした。


この車椅子は車高が高いもの。

車椅子に座っていると立っている人とは視線が違いすぎたり、
美術館の展示では遠く、見上げてばかりいるので、
「視線を合わす」ためにデザインされたそうだ。

実際、この展覧会の開会式のとき、
車椅子を使用している榮久庵さんがこの車椅子に乗り換えて、会場を回られた。











これは四輪バイク。

バイクの醍醐味はカーブで車体を傾けるときの一体感、だそうである。
でも、二輪だと不安定で危険。

四輪バイクだと安定感はあるのに、
カーブでは車体がちゃんと二輪のように傾くので、
バイクとしても楽しめるようになっている。








オレンジ色の目立つバイクは災害が起こったあと、
被災地へ救援することを目的にデザインされている。










車体のカバーを外せば、
発電機にもなるし、
シャベルだってついている。

他にもいろいろ役に立ちそうなものでバイクが組み立てられている。
















そんなわくわくした「未来の素敵な道具」のようなものがずらりと並んだ展示室の次の部屋は、
空気が一変した。

このまま、彼岸に渡ってしまうのではないか、と思ってしまうくらいの静けさ。

しんとしているようで、
どこかがうなりをあげる。



この部屋はことばは使わず、
とにかく体感するのがいい、と思った。

五感をフルに使って、感じとる。


この世界にもユニークなものがたくさん仕掛けられているのだけれど、
それを前もって知るのではなく、
実際に感じるのがいい、と思った。





■写真撮影OK!

この特別展は、三脚・フラッシュの使用不可ですが、
作品は全部、写真撮影可でした。

すごーい!!

美術館でこんなに写真が撮れることもないし、
どの角度から見てもうなる榮久庵さんのデザインにうなります。

カメラやスマホ・タブレットなどを持って回るのもオススメです。







*  *  *  *  *  *  *


道具仏の展示室で意識を持っていかれて、ぼんやりしたまま、
私はウェブレポーターのアンケートに記入していた。


ソファに座り、
飲み物を飲んだり、
なんやらかんやら、
魂が半分抜けている様子でのろのろしていると、
学芸員さんによりギャラリートークが始まり、声をかけられたので、
もう一度、一緒に回ってみることにした。


広島県美の所蔵品展、今はHPAM(エイチパム)コレクションという名称になっているけれど、
その展示で、学芸員さんの熱意がほとばしる
「大好きっ!学芸員が愛する作品たち」
っていうのがあって、面白くてさ。


ギャラリートークを聞いていると、

その熱意がほとばしっていて、
それもすっごく楽しかった。


私は説明文をじっくり読むよりとにかく作品が見たいので、
すっ飛ばしてしまうんだけど、
トークだとお耳に入ってきて、
入口すぐの垂れ幕のことばだったり、
榮久庵さんの簡単なおいたちだったりを説明してもらえたので、
とてもよかった。


「広島が生んだ」というサブタイトルがついているのに、
榮久庵さんは広島出身ではない、とか、
お父さんが広島のお寺の人だった、とか、
「広島に閃光弾が落ちた」と聞いていたのに実際には原爆で焼け野原になっているのを見てショックを受けた、とか。


戦後、「美しいもの」は上の階級やお金のある「一部の人」だけのものだった。
しかし、工業生産が始まって、大量生産ができるようになって安価でたくさんの人に行きわたるようになったが、
使う人の要望は反映されにくくなった。
 「生産する」と「使う人」の間にいるのが「インダストリアルデザイナー」なのだ。

というくだりは、身震いしちゃった。



そして、あのキッコーマンのしょう油びんの話になる。

このびんがデザインされて50年ぐらいになるが、
ほとんど変更されていない完成度の高いものである。

おしょう油は一升瓶や一斗缶で買って、注ぎ分けていた。
卓上しょう油びんは、びんだけではなく中身が入ったまま売られたので、
注ぎ分ける手間がなくなった。
そして、戦後間もない食卓に鮮やかな赤いふたのきれいな形のびんが置かれることは、
人々はどんな気持ちだったのだろう。

と問われるまで、そんなことを考えてもみなかった。



他にもたくさん、自分が見るだけでは得られない情報や見るときのポイントなどが話された。


そしてやっぱり、熱意がほとばしっていらしたので、
自由に見る時間は短くなった。


好みもあるだろうけれど、
一度、自分の感性、自分のペースで作品を見た後、
ギャラリートークでおさらいしたり、新たな視点を得るのが
私のお薦め。







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